企業に入社しサービスを開発するのでなく、自分のサービスを作る個人開発者。質問箱の開発者で知られる「せせりさん」が、個人開発された質問箱を事業譲渡したこともあって、個人サービスを開発してみたいと考えるエンジニアが増えているかと思います。
本連載は、そんな個人開発者にサービスを開発したきっかけやサービスの運用など、普段は表に出てこない「個人開発のリアル」をインタビューする企画です。
第1回は、大学生でありながら、個人で10個以上のアプリ開発を手がけ、代表作である俳句SNS「ニシキゴイ」を開発・運営されている、imagineさんに「個人開発のリアル」をお伺いしました。
imagine
東京外国語大学国際社会学部3年。個人開発者として、これまでに10個以上のアプリ開発を手がける。代表的なサービスとして、俳句SNS「ニシキゴイ」がある。
Twitter:@nowhito
代表作の俳句SNS「ニシキゴイ」が生まれたきっかけ
──今どんな活動をされているのか教えていただけますか?
今は東京外国語大学国際社会学部の学生で、フランス語学科です。個人で iOSアプリをいっぱい作っていて、受託もやっています。また、近々スタートアップにインターンで入る予定です。
──これまでにimagineさんは、どのようなサービスを開発されてきましたか?
本当にめちゃくちゃたくさん作ってきたんです。
──いくつぐらいですか?
アプリだけで10個弱ぐらいで、Webも合わせると15個ぐらいになります。「ニシキゴイ」というサービスが代表作です。しかも、まさかそれが最初に作ったビギナーズラック的なサービスでした。
僕が作るサービスのタイプは2つあって、1つはツール系で、本当に使えそうなやつです。もう1つはコミュニティ系のアプリを作るのがすごく好きです。
それはTwitterとかInstagramなどの大きいところでは、扱いきれない小さいコミュニティみたいなのを自分のアプリの中で作るみたいな感じです。その2つのタイプでやっています。
──ニシキゴイがどんなサービスか説明していただいてもいいですか。
ニシキゴイは単純に言うと、俳句と写真を一緒に投稿できるアプリです。
コンセプトは何個かあるんですけれども、一番かっこいいと思っているのが「写真で世界を切り取って、俳句でそれを広げる」です。
少しだけ、壁の話をしてもいいですか?
──え、どうぞ。
高校生の時に自由研究があって、みんなは社会課題とかを調べていたんですけれども、僕は壁について調べていたんです。その壁の話が、ニシキゴイには一応関係しているんですよ。
壁と人間の争いみたいな話がありまして、最初は壁に向かってぶつかって首の骨を折ってた人間が、革命を起こして曲がるようになりました。今度は壁が四方を囲ってきました。そしたら、人間はそれを登るようになりました。壁が全部塞ぎました。どうしよう?ってなった時に、人間は壁に絵を書いて世界を広げました、という話です。
これが安部公房の「壁」という小説に出てくる話になります。人間の能力として、キュっとなっているものをパッと表現するのって、意外と得意だし好きじゃないですか。あえてその何の変哲もないものに意味を持たせるみたいなの、あるじゃないですか。
──imagineさんは発想がすごい哲学的ですね。
甲子園の砂だってそうですよ。ああいうの全部そうです。ただの砂がめちゃくちゃ思い出深いみたいな。
ニシキゴイもそれと一緒で、写真もここだけ切り取ったらあれだけど、それにこじつけると言うと言い方良くないですけど、それにこじつけて17音乗っけて、それをもっと自分色と言うか、世界を広げるみたいなのがコンセプトです。
実はニシキゴイを作った経緯が、スナップチャットでした。僕が高校生の時に、とあるプログラムでニューヨークの高校行ってたんですけれども、その時にスナップチャットが流行っていたんです。
他の学生に聞いてもInstagramとかTwitterよりこっちの方がもっと表現できる、気楽に投稿をアップできるという話を聞きました。それは確かになと思いつつ、かつスナップチャットは後発なのにあんなに流行ったのがめちゃくちゃかっこいいなと思い、自分も「制限があるサービスを作ろう」と思ったのが最初の発端でした。
──なるほど、じゃあそこからアイデアを膨らませていったわけですね。
そうです。じゃあ制限といえば、何で制限するかというと、時間、文字数とかですよね。他にも色々考えていたんですけれども。
そういう制限があるからこそ、人間は想像力豊かになるみたいなのは最初から考えてました。そこで日本らしい俳句っていう文字数の制限があることを思いついて、そこでアイデアの着想に至りました。最初は俳句というより17音でやってました。
半年強ぐらいそうやってきたんですけれども、個人がやるものとしてはできるだけ絞った方がいいと思っていて、ユーザーの喧嘩なんかも起きちゃいました。「それは俳句だ」とか、「そんなの俳句じゃねーよ」、みたいな感じです。なので、一応こっちの程としては「俳句のアプリです」と言うことにしました。
そうしたらユーザーも増えたし、質の高い投稿というか良いなーと思う投稿も増えました。欲張らないで、できるだけニッチをというのは 本当にその通りだなと思いました。
最初の5人、10人が使ってくれたからこそ今がある
──ニシキゴイの開発をしていて、モチベーションが上がったエピソードがあれば教えてください。
2つあります。1つは最初にユーザーの方がちゃんとついてくれたことですね。最初は本当に周りの10人ぐらいの友達や身内しか使ってくれていませんでした。ただ、大学の友達は、僕と昼ご飯食べている時に、僕の顔を見ている限りは使ってくれていたのですが、彼らは長期休みになると使わなくなりました(笑)
ですが、そもそも俳句のアプリ自体がほぼなかったので、本当にニッチな層に刺さって、最初5人、10人がずっと使ってくれていたんです。
このアプリがプログラミングを始めて、初めて形になって作ったものだったので、そこでユーザーが1人もついていなかったら、続けてはいなかったと思います。
──なるほどですね、最初に10人ぐらいのユーザーがしっかり使ってくれていたから面白いなと思って、その後も個人開発をしていくモチベーションにつながったわけですね。
はい、知らない人が自分のアプリで創作してるのは、めちゃくちゃエモかったですね。それが1つ目です 。
もう1つは、ニシキゴイをリリースして1ヶ月ぐらい経って、Yoさんが手伝うと言ってきてくれた時です。Yoさんは、僕がセブ島のプログラミングスクールに留学していた時のルームメイトです。
──手伝ってくれたことが嬉しかった?
手伝いたいと言ってきてくれて、チームが作れたことが嬉しかったですね。
1人でやるより、チームの方が楽しいです。サービスを作るときに、形だけでも1人LINEグループに入れておくとか、意見もらえる人をグループに入れておくとか、友達でもいいから入れとく、みたいなのはすごいモチベーションにはなりました。
実際に、Yoさんはプログラミングも結構できるので、開発速度が2倍になりました。たまにカフェとかで会って、「次どうする?」とか話合えるのは、一人で考えるよりは楽しいですね。
──チーム開発ってやっぱり楽しいんですね。
いやー楽しいですね。コンフリクトとか起きますけどね。どっちも自分勝手に自分でプルリク出して、自分でマージするので(笑)
──じゃあそれがモチベーションになっているのですね。逆にニシキゴイを作っていて、しんどかったことや苦労したことなどありますか?
最初はプログラミングが全く分かんなかったので、HTML/CSSはやっとわかるみたいな状態で作り出して、最初は0から1作るまでは本当にしんどかったです。めちゃくちゃ楽しくもありましたけど。
みんながやってないことを選びたい
──最初はWebアプリを作られていたのに、よくアプリ作ろうとしましたよね。
間違い無いですね、でもその感じが逆に奮い立たせるみたいなところがあって。最初に作るものとして頭おかしいじゃないですか、普通にToDoアプリとかを作って出せばいいものを、SNS作るのは相当しんどいです。
しかもFireStoreというベータ版が出てすぐの4日後ぐらいに使い始めたんです。知見も何もないみたいなところで、まじでしんどかったです。
──元々はプログラミングを始めた頃はWebアプリを作っていたのに、なんでいきなりiOS アプリ作ってみようというモチベーションになったんですか?
なんかWeb アプリってみんな作っていませんか?みんながやってることをやるのは嫌い、みたいな気持ちがあります。目立ちたいというか、ちやほやされたいという気持ちがあるので。
だから外語大生なのに、プログラミングやろうとしたし、フランス語専攻なのにプログラミングできるとちょっとかっこいいじゃないですか。
それと一緒で、みんながやってないことを選びたいという考えがあります。
──それはこのアプリ開発だけではなくて、imagineさんの人生的な行動基準になっているんですね。
あとつらかったことは、これはニシキゴイではないんですけど、そもそも「何でこのアプリ作っちゃったんだろう?」みたいな感じです。これはめちゃくちゃいっぱいあります。
少なくとも、自分が使うものを作る
──モチベーションが湧かなくなるということでしょうか?
いえ、僕はモチベーションのおばけなので、作り終わるまではモードに入れるので、マジでもう寝なくてもいいんです。アイデアが出てから、作り終わるまで突っ走ります。
こうやって、こうやって、こうやって、こうやって作ったら、これもう絶対1億人使うだろみたいな、その安直な考えで最後まで行ってしまいます。
──1度立ち止まって「おかしくないかな?」と思わずに、ガーっとMVPを作っちゃうという感じなんですか?
いえ、MVPじゃなくて、僕にとってそれはもう完成形レベルです。だって、このアプリをみんなが使わないわけないだろ?みたいなことを考えています。
──いわゆるベータ版的なレベルのものを一気に作っちゃうんですね。その後、何で作っちゃったんだろう?と思ってしまうというのはどういう意味ですか?
それはちょっと格好つけてる場合が多いんです。開発スピードが上がってきてしまったのも問題なんですけど、ニシキゴイを作る時は2ヶ月間かけて作っていたのですが、それが今では1~2週間で作れるようになってしまいました。
そうなってくると、途中で立ち止まるというか、「これ本当に作って誰か使うのかな?」と考える瞬間がなくなってきてしまいます。結果的に、誰も使わないものを作ってしまうことがあります。
だから少なくとも、自分が絶対に使いたいと思うものを作るべきだと思います。
──なるほど、じゃあ少しいいかも?と思ったアイデアでも、すぐに実装できてしまうがゆえに、よく考えずに作ってしまうんですね。
はい、自分でこのレベルなのだから、もっとすごいエンジニアの方々はそういう域だと思うんです。
僕は最初は、作るのに大学の単位を何個も無駄にしなければいけない状態だったんです。そうなったら、本当に欲しいかな?というのはめちゃくちゃ考えます。その末に出したニシキゴイだけが今もちゃんと伸びていて、ちゃんと使われています。
──感慨深いというか、面白いですね。最初に作ったアプリが一番ヒットしているという。
はい。だから、作れるスピードが上がればいいという問題でもないんだなと思いました。それが本当に自分が作りたいものか、使いたいものかかどうかの方が重要ですね。だってクオリティで言ったら、ニシキゴイよりよっぽどマシなものたくさん作っています。なのに、あれだけ最初ボロボロだったニシキゴイが今もずっと使われているんです。
──では今、個人開発をしていて大切にしていることは、さっきおっしゃっていた「本当に作りたいものを作る」ということですか?
そうですね、少なくとも自分が使うものを作ろうと思っています。正直、自分が使いたいかどうかでだいたい決まります。だいたいアイデアって腐るほど出てくるんですけど、自分で5回ぐらい本当にこれ使うかな?と考えたら使わない場合がほとんどなんです。けど、それでも使いたいものは作りますね。
とは言いましたが、実はそれが今でもできてないことがあります(笑)気づいたら作ってた、みたいなのが今でもまだあったりします。
──大切にはしているけど、できてないんですね(笑)
はい、忘れたら思い出してます(笑)
imagineさん独自のアイデア発想法とは
──個人開発をしたいエンジニアは増えていると思うんですけど、僕の周りだと開発したいサービスのアイデアが浮かばないという方がすごく多いんですよ。
それすごい多いですよね、めっちゃ聞きます。
──imagineさんはサービスのアイデアは、どのようにしていつも考えているんですか?
僕はアイデアしか出てこないですね。どちらかと言うと開発の方が足りないタイプです。
──ボヤーとしてたらアイデアが浮かんでくる感じなんですか?
いえ、いくつかの自分なりの手法はあります。
例えば、ニシキゴイだったら大きなプラットフォームを切るみたいな話をしたじゃないですか。それみたいな話なんですけども、Instagramに「#フォト俳句」というハッシュタグがあったんです。写真の上に、文字を載せる投稿です。
それは本来のインスタの使い方ではないじゃないですか。そういう他のプラットフォームで、別の使われ方をされているものを切り取って作ったら、間違いなく需要はあると思っています。
あとは単純に人と話しててですね。
──人と会話してるうちにアイデアが浮かぶことが多いんですね。
そうです、あと例えばその人が可愛い人だったとするじゃないですか。その人が欲しいって言ったらそれは作りますよ、モチベーションの話になりますけど。
その人一人でも欲しいって言ってくれる限りは頑張れるので、そして欲しいと言っているその人は少なくとも使うじゃないですか。
あとは発想のリミッターを外すことは、本で読んでからずっとやっています。絶対にそんなことはやっちゃいけないだろ、ありえないだろみたいなことをやるイメージです。
今ちょうどReactorKitという、新しいインターン先のために必要な技術の勉強がてらに、ToDoアプリを作っています。それは最初はDo or Payにして、その日のタスクを全部できなかったら、200円を僕に振り込ませるみたいなサービスです。
それを作りたかったんですけれども、ちょっとこれは仕組みとしてどうなのかな?と思ったので、これ全部達成したら名言が頂けるという機能に変えました。
つまり、今ある普通のアプリからちょっと変えるというか、絶対違うよねみたいなことをしてみます。例えばこのアプリは今日と明日のタスクしか出来ないんです。なので、普通ではありえないんですけど、ありえないことの方が作っている人は少ないので、そういう感じです。
一般的に良さそうなものはもうだいたいあるんですよ。だからちょっと変わったものを作って当たったらベストかなと思ってます。
あと普段からめっちゃメモするようにしてますね。途中までメモはWunderlistで書き込んでたんですけど、最近はGoogle Keepを使ってます。かなり便利です。会話とか自分が困っていることを逐一メモしています。
──じゃあアイデアの材料となるものは、常に準備している状態で、それがうまく繋がってアイデアになっているということなんですね。
(自身のメモを見返しながら)あ、サービス100個考えるまで帰れまてんみたいなの書いてありますね。あと出会い系のチャットの内容が見れるアプリとか面白くないですか?Tinderでどんな会話しているか、めっちゃ見たくないですか?どんなやり取りしてるのか気になるな。あと花柄が好きなので、花柄だけの洋服屋さん欲しいなとか。あと、これとかどうですか?登壇とかでこのワード響いたわーみたいな名言を共有できるみたいな。あと世論調査はこれ本当?みたいなとか 。
──(すごい、、)なるほど、常にアイデアは考えてるんですね。imagineさんが考える個人開発で、自分のサービスを作るメリットは何だと思いますか?
肩書きがつくことですね。僕だと、”ニシキゴイのimagine”みたいなのはめちゃくちゃでかいと思っています。要は、ブランディングです。
〇〇会社のエンジニアです、もすごいと思うんですけど、このサービスのimagineです、みたいな。自分というアイデンティティになるじゃないですか。
──例えば質問箱のせせりさんです、みたいな感じですね。
そうそう、あの方もプロフィールに書いているじゃないですか。だから何々をしたimagineという風になるのは、やっぱり個人開発の方が多いんじゃないかなと思います。
友達と一緒に何かを作り続けていきたい
──imagineさんかっこいいですね。今後の展望について教えていただけますか?
理想としては、今大学生なのでエンジニアとして就職するにしてもしないにしても、社会人になって平日はある程度働いていて、週末も自分のプロジェクトがあるみたいな、それが今のところ理想です。
その週末のプロジェクトが大きくなって、そこから会社になるとかはめちゃくちゃ楽しいし、だから今は友達とできることがしたいみたいです。大人になっても個人開発で一緒に作ってたら繋がれるじゃないですか。
友達のエンジニアとか、Yoさんもそうですけど、Yoさんも今もう就職しましたけれども、それでも繋がってられるのはやっぱり一緒に作ってたからだと思うんです。
友達と一緒に何かを作ることを今後も続けていきたいです。