GAOGAOメディアの新企画「海外クリエイター図鑑」です。
この企画のコンセプトは「海外で活躍する日本人クリエイター(エンジニアさんやデザイナーさん)の生の声を知り、海外でチャレンジする敷居をもっと低くしよう」というものです。
海外生活や海外での仕事に興味があるけど、どのようなものなのか想像がつかない!そう思っている読者の方はいませんか?! そんなあなたをターゲットとした企画です。
今回インタビューに応じてくれたのは、ベトナム・ホーチミンにて、HRTechスタートアップ「freecracy」でUIUXデザイナーとして海外インターンシップをされている、三上蒼太さんです。
三上蒼太
東南アジア向けビジネスSNS「freeC」を運営する freecracy のUIUXデザイナー。ASEAN × Design が専門領域。 “東南アジアで働く”を近くするWebメディア「アセナビ」を運営。株式会社アトラエ内定者(10月~)。
Twitter:@sota_mikami
「たぶん、君デザイナーがいいね」社長の薦めでデザイナーの道へ
──今どんな活動をされているのか教えていただけますか?
いまは大学生をしながら、freecracyでデザイナーとしてインターンをしています。
通信の大学に通っているので場所はどこでもよく、東南アジアに拠点を置きながら授業を受けています。インターンをしているfreecracyは、ベトナムを拠点とした日系スタートアップです。
──三上さんがデザイナーになるまでの経緯を教えてください。
僕が新卒で入社予定の会社がアトラエという会社で、そこの社長と最終面接しているときに、「君はどんな働き方がしたいんだ?」と聞かれました。
それに対し「ユーザーさんと近い距離で働きたいです。ユーザーさんとなるべく近い場所で、ユーザーさんと対話をしながら、サービスを改善していけるようなポジションがいいです。」と答えると、「たぶん、君デザイナーがいいね。だからデザイナーになりなよ。」と言われ、そこからデザイナーを目指し始めました。
──その最終面接のときまでは、デザイナーではなかったんですか?
そうですね、デザイナーという意識は全くなかったです。ただ良いサービスを作れたら良いなと思っていたので、ビジネス職でもいいし、やれと言われたらエンジニアもなくはないかなと思っていたんです。
──では、そこからデザインの勉強を始めたんですか?
そうですね。
ただその面接の前からwebサービスを作りたいという考えはあったので、UXデザインやUIデザインという言葉自体は知っていました。Goodpatchさんのブログなど、デザイン系の記事を読んではいました。
──デザインは独学で勉強されたんですか?
はい。アトラエに新卒入社するまでに、デザイナーとしてのスキルを身につけなければと思いました。初めはツールの勉強からだと考え、Adobe XDの勉強からはじめました。
なにか物を作りながら学ぶのが良いだろうと思い、UIデザインではないんですけども、Adobe XDを使ってメンズノンノのパロディ雑誌を作りました。
また、#DailyUIという、毎日1画面、1つのお題のUIデザインを作るという取り組みを行いながら、デザインツールの使い方を覚えていきました。
そんなある日、ベトナム人向けのサービスを作りたいという人からTwitterで連絡が来ました。「こういうサービスを作りたいと思っている、デザイナーとして手伝ってくれないか?」とお声掛けを頂き、初めて実際のプロジェクトに入れることになりました。
そのお仕事はきちんとやりきることができず、悔しい結果になってしまったのですが、良い経験になりました。スピードは早くはないながらも、1つ完成物を作るということができましたし、0→1フェーズでのデザイナーの役割が経験できました。
──では日本では、独学でデザインを学習したり、デザイン案件をやられていたんですね。
そうですね。
スキルと経験を得て、初心者ではない状態でアトラエに入社したいと思っていました。ですので、デザインツールを勉強しながら、少しずつお仕事もいただいていました。
4月から夏休みまでの期間、独学でデザインを勉強してみて、ツールの使い方は身につきつつあるけれど、デザインの基礎が分かってないことに気づきました。Webや書籍でインプットはできるものの、土台ができていないことを不安に思うようになったんです。ちゃんと勉強したいなと思い、思い切って大学を変えてしまいました。
デザインの基礎を学べる通信制の大学があったので、そこに編入し講義を通してデザインの基礎を学びました。
僕が好きな場所も、生き生き働ける場所も東南アジアだった
──たしかホーチミンでインターンをされる前に、旅をされていましたよね?
はい、していました。
僕が最終的にやりたいことの1つに、アトラエを東南アジアに持って行きたいという目標があります。僕が好きな場所が東南アジアですし、僕が生き生き働ける場所も東南アジアなので、ここで仕事がしたいです。ただ、東南アジアに僕が新卒で入りたい会社がなく、日本にあるアトラエという会社を選びました。
なので、いつかアトラエを東南アジアに持って行きたいという考えがあります。それを実現させられるよう、入社までの時間を準備期間とし、有意義に活用したいと考えています。
その手段として東南アジアをぐるぐる旅しながら、受託の仕事をしてお金を稼ぎながら、東南アジア各国のサービスを見てデザインのキャッチアップと思っていました。
ただ、いざその旅を始めてみると、だらだらと各国を旅するのは良くないなと思い始めました。数日現地にいるだけでのキャッチアップは困難で、当時は自分の中にナレッジが溜まっている感覚がなかったんです。
せっかく東南アジアにいるなら、現地にフォーカスしたほうが得られるものがあるかなと思いました。
例えばタイにいるなら、タイ人向けのサービスを実際に作ってみる方が学びがあるはずです。そう思うと、だらだら旅をしているのはあまり意味がないと思ってしまったんです。
──そもそもなぜ旅をしようと思ったんですか?
東南アジアのサービスを知ったり、なぜそのサービスがその土地で受け入れられている理由を考え、アトラエを東南アジアに持っていくためのナレッジを溜めるためと考えていました。でも実際にやってみたらこれじゃ足りないと思い、現地の人向けのサービスを作ったほうが良いなとなったんです。
──そのタイミングでホーチミンでインターンを始められたわけですね。インターン先としてfreecracyを選ばれたのはなぜですか?
インターンをする企業を考えた時に、東南アジアに関われそうなところで、自分が良いなと思えるサービスを運営している企業を探しました。それで思い浮かんだ会社が3社あって、その一つがfreecracyでした。
実は去年の夏に初めてのお仕事で担当させていただいたサービスのコンセプトがfreecracyが開発・運営する「freeC」とほとんど同じで、freeCがα版をリリースしたのが自分がデザインをしていた頃でした。
やりたかったサービスでしたし、freecracyの代表の方に連絡して面接させていただいたところ、快く「いいよ、来なよ。」と言っていただき、ジョインしました。
──ホーチミンでインターンをされている、freecracyはどんな会社ですか?
freecracyは、ベトナム・ホーチミン拠点でHRTechサービスを展開する日系スタートアップです。「freeC」という就職やクラウドソーシングのSNS型プラットフォームを開発・運営しています。
デザイナーとして、ベトナム人の感覚を掴むことに苦戦
──三上さんはfreecracyでは、どのような業務をされていますか?
UIUXデザイナーという肩書きで仕事をしています。freeCが企業と求職者のマッチングのプラットフォームなので、企業向けのページとユーザー向けのページの二つがあります。
今はその両方をリニューアル中です。「そもそもfreeCとは何か?」というコンセプトメイキングを固めた上で、いらない機能を削ったり必要そうな機能を足したり、企画からデザインまでをやっています。
それが落ち着いたら、今度はそれをスケールさせていく段階だと思っています。
freeCがどんなサイクルを描けば健全に成長していくのかをきちんと見極め、ここの部分を伸ばすためにどんな施策があるだろう、それの優先順位は何だろうと考えています。技術的なところとスケジュールと相談しながら、それをデザインに落とし込んでいくつもりです。
──社内にデザイナーは三上さんのみだそうですが、大変ではありませんか?
そうですね。
特に大変なことは、いくらベトナムが好きとはいえ、ベトナム人ではないため彼らの感覚を分かっていないことです。もちろんたくさん聞いてキャッチアップしようとしてはいるものの、やっぱり分かっていないことが多いです。
社内のベトナム人の社員にヒアリングして、どれがいい?みたいな感じで聞きながら、彼らの感覚をつかもうとしています。ただそれでもやっぱり難しいし、ベトナム語でヒアリングもできないので、社内で日本語が通じる人や、英語でコミュニケーションが取れる人にしかヒアリングができません。
だから、もう1人ベトナム人のデザイナーさんが欲しいなと思っていて、今は採用に動いています。
──他に何かインターンをしていて、大変なことはありますか?
自分のデザイナーとしてのレベルの粗さに、苦しんでいます。
特に、見積もりがうまく出せないことです。例えば「このデザインを作るのに何日かかります」と、言った通りドンピシャに終わらせることができなくて、開発チームに迷惑をかけてしまっています。
それに、まだサービスの全体像が分かりきっていないことも課題です。こういう機能もあったのかという発見がいまだにあります。こういう機能をつくりたいと開発チームと相談したら、それは実際には難しいとか、それ今の仕様で実現できるよね?ということが起こっています。
企画や開発と調整をしながら、見積もりを出してその期間で作り上げるということに苦労してしまっています。
東南アジアに目覚めた、大学時代のインターンシップ
──海外でインターンをしていて、よかったことはありますか?
よかったことは、四年前に初めてベトナムにきて、ベトナムのことが好きで、そこから半年に1回ペースでは来ていましたけれど、まだまだ知らないことはたくさんあることです。
また、今は実際に求めていた経験ができていまして、ベトナム人向けのサービスを作って、大きくするところに携わる、そこの経験を得るというところを欲していたので、求めていた経験をさせていただいている、あとは結果を出すだけだと思っています。
──なんでそんなにベトナムが好きなんですか?
よく聞かれるのですが、いつも回答に困っています(笑)
高校を卒業して大学に入学し、大学1年生の時の講義で必修でとらなければならないキャリア系の授業がありました。
その講義で同じ学科の友達が登壇していて、「僕は夏休みにベトナムに海外インターンシッププログラムに参加して、こんな素晴らしい体験をできてすごくよかったです。皆さんにもぜひチャレンジして欲しいです」というプレゼンをしていたんです。
当時の僕なんて海外にすら行ったことなかったし、自分はその友達の活動に嫉妬心が湧き、「あいつにできるなら僕にもできる」と思い、同じ海外インターンシッププログラムの次の期に参加し、ベトナムに初めていきました。
それが初海外だし、いろんなインパクトも受けました。その中でも特に教育支援の施設にいき、ベトナムではこのような教育支援を行なっていて、こういう課題があって、という話を聞くまで、僕はベトナムは社会主義の国だから、教育もしっかりしていると思っていたんです。
ですが、社会主義なのに、教育を受けられない人もいるということを知り、もっとベトナムのことを知りたいとか、どうしたら改善できるのかな?という思考になり、ベトナムへの関心が徐々に湧いていきました。その後、独自で調査したり、もっと教育的なところを知るために、ベトナムに何度か来ているうちに、友達も増えたし、好きになっていったのかなと思います。
日本人デザイナーは海外で価値を発揮できる
──三上さんの今後の展望を教えていただけますか?
2つあります。
1つはアトラエを東南アジアに持っていくということです。自分が心から良いと思える会社を、自分が心から好きな場所に持ってきたいと思っています。
アトラエの価値観が「世界中の人々を魅了する」なので、その価値観を広げたい、その思想で良いサービスを作って、多くの人に使われるサービスにしていきたいと強く思っています。
もう1つは、東南アジアに特化したデザインギルドを作ることです。僕は東南アジアが好きだし、ここの人向けに何かを作ることにわくわくします。
新規事業として東南アジア向けサービスを作ろうとしている方や企業、また既存サービスを東南アジアに展開させたい方のお手伝いがしたいです。
アトラエとしても良いサービスを作りつつ、その枠にこだわらずに、自分が魅力的だと思えるサービスが東南アジアに届くことを応援できるようになりたいです。東南アジア向けのサービス作りを考えている人は、まず三上蒼太に相談する、みたいなポジションがとれると最高です。
──ありがとうございます。それでは最後に、海外でチャレンジしたいデザイナーへひとことお願いします。
まだ経験の浅い僕がいうのもあれですが、東南アジアのサービスを見ていて思うことは、まだまだ平均的なレベルは高くありません。
そこそこ綺麗なグラフィックであればそのUIが受け入れられる、みたいな文脈がまだまだありますし、UX設計ができていないのでは?というサービスも少なくありません。
もちろんGrabやGO-JEKなど大きい会社には、良いデザイナーが入っているのは間違いありません。ただ、まだまだよくできるんだろうなと思ってしまうサービスが東南アジアには多くあります。
その点、僕は日本の良いサービスを知っていますし、日本の洗練されたサービスをみて、それがどういうデザインで、どういう考えでデザインされているのだろうというところをキャッチアップし、ベトナムのサービスに反映させることができます。
ベトナム人の考え方を理解するのに苦労はするものの、僕は日本の良い事例を知っている、また知りやすいことを強みとし、デザイナーとしての価値を届けることはできるのかなと感じます。
ですので、日本人デザイナーが日本のサービスデザインをよく知っていることは強みになると思います。そういう意味で、日本人デザイナーは海外で価値を発揮できると思っています。